2019.08.14
シリーズ・徒然読書録~鎌田浩毅著『富士山噴火と南海トラフ』
あれもこれも担当の千葉です。
読書は好きで、常時本を持ち歩く癖が付いてしまいましたが、読み方は極めて
大雑把、何かしら記憶のどこか、心の片隅にでも蓄積されていれば良いという
思いで雑然と読み流しています。暫くするとその内容どころか読んだことさえ
忘れてしまうことも。その意味で、読書の皆様には退屈でご迷惑かとも恐縮し
つつ、ブログに読書録なるものを記してみるのは自分にとって有益かも知れない
と思い、始めてみました。皆様のご寛恕を請うところです。
徒然なるままに読み散らす本の中から今回取り上げるのは、蒲田浩毅著、『富士
山噴火と南海トラフ~海が揺さぶる陸のマグマ』(講談社・ブルーバックス)。
ブルーバックスは物理・化学を中心に自然科学の入門書として長くに亘って国民
の知的欲求に応えて来た優れたシリーズで、文化系頭の私も理解もできないまま
に(量子力学?エントロピー?)、中学・高校の頃からよく手に取ってきました。
日本は世界有数の火山国・地震国ですから、頻繁な地震や火山の噴火は当たり
前と言えば当たり前なのですが、あの3.11以来、とりわけ東南海地震や首
都圏直下型地震、富士山の噴火の話題が多くなっています。本著は、まさに富
士山噴火を3.11や東南海地震との関連で解説した概説書となっています。
二部構成の前半では、有史以前からの富士山や世界の多くの火山噴火の歴史・
実例をもとに、火山噴火で起きる種々の災害(火山灰、溶岩流、噴石と火山弾、
火砕流と火砕サージ、泥流)の概要を解説し、今後の富士山噴火で起こり得る
被害の想定と防災対策なども論じています。そして後半では、富士山噴火の仕
組みと過去の噴火の概要、3.11が日本列島に与えた影響、富士山噴火と東
南海地震の関係、富士山噴火予知の現状などが記されています。
著者の論旨を纏めてみれば、①3.11によって300年の平静を保っていた
富士山直下のマグマ溜まりに異変が起きて、いつ噴火が起きてもおかしくない
状態となった。②東南海トラフの巨大地震は必ず起こるもので、富士山噴火と
連動する(同時という訳ではないが)かも知れず、被害は長期・甚大となる恐
れがある。③富士山には日本人の心の故郷とも言うべき恩恵があるように、日
本列島にある111個もの活火山がもたらす災いと恵みは表裏一体のものであ
り、怖れ忌み嫌うばかりのものではない、と言ったところでしょうか。
尚、富士山のおひざ元、富士市のホームページに、過去の富士山の噴火を簡潔
にまとめたページがあるのでご紹介しておきます。
富士市>くらしと市政>防災・安全安心>富士山火山について>富士山の
噴火史について
https://www.city.fuji.shizuoka.jp/safety/c0107/fmervo000000oxtb.html
この先は、著者の言を抜粋して終わります。
『それ(宝永の大噴火)以来、鳴りをひそめていた富士山の地下でまた地震
が起きはじめたのは、2000年の10月だった。300年もの間、静寂を
保っていた富士山が、まだ活きていることを多くの人に知らしめた事件であ
った。』・・・これは、2000年10月から、山頂で4回の有感地震(最
大震度3)や深部での低周波地震の多発が観測されたことを指しています。
『その後の2011年に起きた東日本大震災によって、富士山をめぐる状況
は一変した。・・・その四日後に、富士山では震度6強の直下型地震が発生
した。このとき、富士山の「マグマだまり」で、ある重大な異変が起きた可
能性があり、われわれ火山学者は全員肝を冷やした。まだ噴火が起きていな
いのは幸いと言うべきだが、もはや富士山はいつ噴火してもおかしくない
「スタンバイ状態」に入ったと、私は考えている。』・・・3.11の直後
に始まった計画停電の最中に起こった、あの富士宮地震のことです。
『東日本大震災の発生以降の日本列島は、今後少なくとも数十年は地震と噴
火が止まない「大地変動の時代」に突入してしまった。近い将来に南海トラ
フで巨大地震が発生することは確実視され、国を挙げて警戒中である。』
『富士山は江戸時代に噴火したあと、不気味な沈黙を守っている。言ってみ
れば300年分のマグマを地下に溜めたまま、いつでも噴火できる状態にあ
るのだ。』
『もはや富士山は、「いずれは噴火するであろう火山」から、「近い将来に
必ず噴火する火山」へと歩を進めてしまったと考えられる。』
『そして何より、富士山の噴火はやがて起きる南海トラフ巨大地震と連動す
るおそれがある。・・・宝永の大噴火は、それに先立って南海トラフでマグ
ニチュード9クラスの巨大地震(宝永地震)が発生してから、わずか49日
後に起きている。次の南海トラフ巨大地震は2030年代に起きると予想さ
れ、その時にはやはりこうした時間差で富士山噴火が連動するかもしれない
ことが、きわめて大きな懸念材料となっている。』
『20世紀以降、M9クラスの地震は全世界で8回起きているが、ほとんどの
ケースで、遅くとも地震の数年後に震源域の近傍の活火山で大噴火が発生して
いる。』
『富士山噴火と巨大地震の連動にどう対処するかは、わが国にとって存亡を
かけた喫緊の課題と言っても過言はないのである。』
こうしてみると、確実に近い将来に大災害がもたらされ、なす術もなく立ち
尽くすしかないかと思われますが、被害を減殺し、少しでも早期に復旧する
ための知恵や工夫が無い訳ではありません。
『噴火予知は地震予知と比べると、実用化に近い段階にまでは進歩して来た。
しかし、一般市民が知りたい「何月何日に噴火するか」に答えることは、残念
ながら現在の火山学ではできない。』
『自然の脅威に対しては、むやみに怖れるのではなく、「正しく」恐れなけ
れば立ち向かうことはできない。そのためには脅威の正体をよく知らなくて
はならない。富士山噴火がもたらす災いと恵みは、実は表裏一体の関係にあ
る。』
『宝永噴火の翌年には、富士山の登山客が2倍に増えたという。・・・ひと
たび噴火が起こったときは、火山学をはじめとする科学の力で、可能な限り
被害を小さくする。そして噴火が終息したあとはまた、火山の恵みをゆっく
りと楽しむ。富士山噴火を知ることは、こうした生き方を知ることにつなが
る。そしてこれこそは、世界でも例がないほど火山が密集する日本列島で
「しなやかに」生き延びる知恵といえるのではないだろうか。』
『東日本大震災から始まってしまった「大地変動の時代」は、日本人全員が
力を合わせるためのまたとない機会でもある。四季折々の美しい自然と共存
してきた生命力が、われわれにはあるのではないだろうか。』
なお、噴火の災害の中で、最も広範囲に、しかも長期にわたって被害を及ぼ
すであろう火山灰(ひいては泥流も)についての記述からも抜粋しておきます。
『かりに1707年の宝永噴火と同規模の噴火が15日続いたと想定すると、
御殿場市では1時間に1~2センチメートルの火山灰が降り続き、最終的に
120センチメートルに達する。また、富士山の山頂から80キロ離れた横
浜市では1時間に1~2ミリメートルの火山灰が断続的に降り、最後には10
センチメートルの厚さになる。・・・東京都新宿区では噴火開始の13日目
から1時間に1ミリメートル降り、最終的に1.3センチメートル降り積もる。
これにより、富士山の周辺では建物の倒壊(屋根の積灰荷重による)などの
被害が出るほか、噴火から10日過ぎには富士山から100キロメートル以
上離れた首都圏の全域で、道路・鉄道・空港・通信・金融などあらゆる方面
で影響が出る恐れがある。』
『宝永噴火をはじめとする富士山の大規模噴火では、最近50年間に桜島が
毎年放出してきた火山灰の200年分を超える量が、たった半月で出たので
ある。』