2017.10.27
シリーズ・徒然読書録~夏川草助著『本を守ろうとする猫の話』
あれもこれも担当の千葉です。
読書は好きで、常時本を持ち歩く癖が付いてしまいましたが、読み方は極めて
大雑把、何かしら記憶のどこか、心の片隅にでも蓄積されていれば良いという
思いで雑然と読み流してしまいます。その意味で、読者の皆様には退屈でご迷
惑かとも恐縮しつつ、ブログに読書録なるものを記してみるのは自分にとって
有益かも知れないと思い、始めてみました。皆様のご寛恕を請うところです。
徒然なるままに読み散らす本の中から今回取り上げるのは、夏川草助著『本を
守ろうとする猫の話』(小学館刊)。ご存知、医師・夏川草助氏は、映画化も
された大ヒット作『神様のカルテ』シリーズの著者で、この本も神様のカルテ
同様の、ユーモアに溢れた心温まる物語です。
突然に祖父を亡くした高校生の夏木林太郎には両親がいません。祖父が営ん
でいた古書店には、流行に左右されない名著が数多く蔵書されていました。
その大好きな夏木書店をたたみ、叔母に引き取られることになった林太郎の
前に、人間の言葉を話すトラ猫が現れます。その茶トラに数々の迷宮から本
を救い出す手助けを頼まれた林太郎のファンタジー冒険譚となっています。
膨大な量の本を読み陳列し鍵をかけて本を閉じ込める男の迷宮、膨大な数の
本の内容を短い言葉で要約するために世界中の本を集めて切り刻む男の迷宮、
売り易い本ばかりを造り売って売って売り捌く男の迷宮、友を囚われの身と
して閉じ込めた理不尽に満ちた世界の奥の迷宮。こうした迷宮から、大切な
本や友を救い出す冒険の過程で、林太郎は本について、人生について多くを
学び・自覚して行きます。
第一の迷宮の話を読んでいるうちに、限られた人間の生に対して圧倒的に
膨大な書物の前に怯みかける主人公たちを描いた、庄司薫氏の『赤頭巾
ちゃん』シリーズ4部作の第2作、『白鳥の歌なんか聞こえない』を連想
しました。
また、『本を愛する人はこんなことはしない』の一言で問題が解決して
しまうという安直さに嫌気がさしながらも、同時に著者が如何に本を愛し
ているかがストレートに投げ込まれて来る爽快さもあり、結局はやはり
『神様のカルテ』の著者・夏川草助氏だなぁと安心もしました。
最後に、読みながら気になり、抜き書きした文章を羅列して終わります。
『時代を超えてきた古い書物には、それだけ大きな力がある。力のある
たくさんの物語を読めば、お前はたくさんの心強い友人を得ることになる』
『本がお前の代わりに人生を歩んでくれるわけではない。自分の足で歩く
ことを忘れた本読みは、古びた知識で膨らんだ百科事典のようなものだ。
・・・読むのはよい。けれども読み終えたら、次は歩き出す時間だ。』
『本を読むことは、山に登ることと似ている。読書はただ愉快であったり、
わくわくしたりするだけではない。ときに一行一行を吟味し、何度も同じ
文章を往復して読み返し、頭を抱えながらゆっくり進めていく読書もある。
その苦しい作業の結果、ふいに視界が開ける。長い長い登山道を登り詰め
た先ににわかに眺望が開けるように。読書には苦しい読書というものがあ
るのだ。愉快な読書もよい。けれども愉快なだけの登山道では、見える景色
にも限界がある。道が険しいからといって、山を非難してはいけない。』
『安っぽい要約やあらすじがバカみたいに売れる。ただただ刺激を欲している
だけの読者には、暴力か性行為の露骨な描写が一番。想像力のない人向けには
「本当にあった話」なんて一言添えれば、それだけで発行部数は数割アップ、
売上は順調に伸びて万々歳。どうしても本に手が伸びない人のためには、もう
単純な情報を箇条書きにすればいいだけ。成功するための五つの条件とか、
出世するための八か条なんてね。』
『理不尽に満ちた世界を生きていく上で最良の武器は、理屈でも腕力でも
ない。ユーモアだ。』
『本はもしかしたら「ひとを思う心」を教えてくれるんじゃないかって。
・・・なぜ人を傷つけてはいけないか、わからない人たちがたくさんいる
んです。そういう人たちに説明するのは簡単じゃありません。理屈じゃな
いんですから。でも本を読めばわかるんです。理屈で何かを語るよりずっ
と大切なこと、人はひとりで生きているわけじゃないってことが、簡単に
わかるんです。』
『読んで難しいと感じたなら、それは柚木にとって新しいことが書いて
あるから難しいんだ。難しい本に出会ったらそれはチャンスだよ。』