2012.11.15
贅沢な時間~わさび収穫体験と『羅漢』の魔法のおもてなし
あれもこれも担当の千葉です。

 

先月、中伊豆のわさび栽培9代目の友人の計らいで、わさびの収穫

体験をさせて戴きました。



この中伊豆は筏場のわさび沢は色々なメディアにも登場する『名所』

で、天城湯ヶ島・三島・沼津に縁の濃い作家、井上靖の、今年公開された

自伝的小説の映画化作品『我が母の記』にもロケ地として登場していまし

た。(拙ブログをご笑覧下さい。http://www.szki.co.jp/blog/2012/05/0520_post_19.html

 



わさび田はご覧のように比較的小さな区画ごとに仕切られています。

所有者が異なるという場合もありますが、作業により濁ったり汚れた水

を区画の間の水路で排水し、次の区画に入らないような工夫がされて

います。上流から下流への配慮、お互いの協力が必要となりますね。

今から250年ほど前に、伊豆のしいたけ栽培の伝授の見返りに、安倍川

上流の地域からわさび栽培の伝授があったと言われています。比較的

冷涼な気候と一年中絶えない豊富な清流が必要で、天城山の北斜面

は持って来いの環境だったそうです。

品種にもよりますが、わさびは生育に1年から1年半の時間が掛かり、この

間に大水や土砂、積雪、渇水などの災害に合わぬよう祈りながら手塩に掛

けるのですね。

 



わさびの生態や栽培の苦心など聞きながら収穫体験をさせて戴き

ましたが、茎をその場でかじりながら夢中になってしまい、作業の風景

を『パシャリ』し忘れてしまいました。上の写真が私が収穫したわさび。

二株から4本(奥にもう1本あります)。真妻(まづま)という品種で、19

ヶ月ものです。

 

収穫体験の後は、中伊豆地蔵堂にある『羅漢』さんでの食事交流会。

そこには築170年の古民家を改装した素敵な空間が待っていました。



玄関を入ると土間スペース。ここでお迎えのお茶を戴きます。



お茶が済むと外の小屋に案内され、そこで食前酒と先附を戴きます。

なんとこの小屋は味噌樽を逆さまにして戸と小窓をつけたもの。風流。



食前酒に話が弾んで暫しすると小屋の外から声が掛かり、また

土間スペースに戻るとそこには見事な八寸が並んでいました。

一枚の黒塗りの大板の上、紅葉の葉のあしらいの中に、一つ々々

手を掛け、見た目にも美しい小さな宝物のような小品が並んでい

ました。席に戻った時の驚きを伴った感動は特筆ものです。この

準備のためにお茶の後に一旦外の小屋に出るという仕掛けだった

のですね。食べてしまうにはもったいないくらい、とは言いながら、

これは何あれはこれだと話が盛り上がります。

 



八寸を食べ終わる頃には、隣の座敷の囲炉裏の炭には、頃良く火が

熾きています。



お酒の徳利も灰に挿して炭の火でお燗をします。網に立てかけ易い

ように徳利の胸の辺りに二つの突起があり、ちょうど小さな子供が塀

に手を掛け向こうを覗き込むような形で可愛らしい。

この日はお仲間の天城軍鶏の生産者の方がお肉を届けて下さり、特別

にメニューに加えて戴きました。この天城軍鶏の見事な歯ごたえにびっく

り。皆がたてる音がとてもお肉を噛んでいる音ではありませんでした。



さんざん飲み、食べ、話に興じ、かなり満腹になっていましたが、釜で

炊き立てのご飯が出ると、満腹中枢は麻痺してしまい、香ばしいおこげ

の混じった美味しいご飯を平らげてしまいました。

 



ご飯の上の振り掛けは、この日教わった『わさびレシピ』の一つ。

鰹節の削り粉におろしたてのわさびを合え、少量のお醤油を加え

たもの。香ばしさが増し、絶品でした。因みにもう一つ教わった

『わさびレシピ』は、わさびの茎を5ミリ程に刻み、塩もみしてアクを

抜いて塩昆布と混ぜるもの。早速帰って作ってみました。塩を入れ

過ぎないのがポイントです。

 



ご飯が終わる頃には隣の土間にデザートが用意されていました。

 



デザートを食べ終わると、なんと入館してから5時間以上も経っていま

した。まるで浦島太郎。こんなに長くお邪魔していた感覚は全く無く、

仲間との話しに興じていたにせよ、この『羅漢』さんの魔法のようなおもて

なしのなせる業に違いありません。一日に一組だけへの全身全霊を込

めたおもてなし。心地よい時間、空間、お料理、そして仲間が融合し、通常

の時間感覚を失ってしまうような素敵なひとときを経験させて戴きました。