2012.12.03
『常識までが売り物?』~新幹線の車中の出来事
あれもこれも担当の千葉です。

 

 

いよいよ12月、師走に入り、急に寒さが厳しくなったように感じます。皆様お

風邪などひいていませんでしょうか。

 

出張などでたまに新幹線を使います。写真は東北新幹線。東北新幹線には

写真のような、背もたれのリクライニングと座面のスライドの両方が出来るも

のがあって、たまに乗るとちょっと贅沢な気分になります。

 



席に着き、リクライニング・シートを倒す時には、後ろを確認し、ひとこと

『済みません、倒させて下さい』と声を掛けるようにしています。

 

見ていると、座るなりいきなりリクライニングを倒す方が多いんです。正規

の料金を払った自分の席でしょうけれど、私は自分の目の前の方にいき

なりシートを倒されると、不快な思いをすると同時に悲しくなります。床の

物を取ろうとして頭を前傾している時でなければ実害はあまりないのです

が、それでもあり得ないことではありません。ひとことがなくても、後ろの

方に迷惑にならないかを確認しながら倒される方を見掛けるだけでも嬉し

く、幸せな気持ちになれます。

 

公衆道徳やマナーの原点は、他人に迷惑を掛けない(従って自分に迷

惑が掛からない)ということで、ひいてはお互いが気持ちよく過ごせる、と

いうことではないかと思っています。その意味では、自分の権利を少し譲

ってでも他人の権利を尊重する必要がある場合もあるでしょう。また、他人

にとって迷惑になるかどうかに思いが及ぶかどうか、気付きや思いやりの

あるなしで随分と違いが出てくることになります。公衆道徳やマナーは、こ

うした気付きをある程度定型化したもののように思います。親や大人が子

供たちに教え、引き継いで行きたいものです。

 

先日新幹線車中でのことです。何度もシンナー臭のような変な匂いがし、そ

の度に目が痛くなり、頭も痛くなったため、後ろの席を覗いてみると、高校生

か大学生くらいの年齢の女性がマニキュアを塗っていました。目が痛くなる

ので止めてくれと言ったところ、本人からは何の反応も無く、少し間をおいて

隣の母親と思しき女性に謝られました。痛みなどの実害よりも、気持ちが悲し

くなってしまいました。

 

次の駅で、大学生くらいの男性の一団が乗車して来ました。嫌な予感がした

直後、私の前の席に座った若者が『済みません、背もたれを倒させて下さい』

と言って来ました。私も大きな声で、『どうぞどうぞ。ありがとう。』と答えました。

彼のお陰で、それまでの悲しい気持ちが救われ、帰着するまでとても幸せな

気持ちでいられました。きっと彼は私の『ありがとう。』の意味を酌んでくれただ

ろうと思っています。

 

11月28日付け日経朝刊の『春秋』に大変興味のある記事がありました。



落語家の桂文珍師匠が、割増料金で行列に並ばずに優先的にアトラクションに

乗れるテーマパークのことを話題にして『お金があれば割り込めちゃう』と揶揄し

会場を沸かせていたと記しています。マイケル・サンデル米ハーバード大教授の

著書『それをお金でかいますか』で取り上げられた、絶滅に瀕したサイを撃つ権

利や生徒が一冊本を読むと2ドル与える高校などを紹介し、常識までもが売り物

になってしまうのかと嘆いています。

 

最後の文珍師匠のアドリブが素晴らしいです。その会場で出し抜けに着メロが

鳴り出すとすかさず、『そのうちお金を払えば一番前の席で携帯電話で話せる

ようになるんでしょうかねぇ』。文珍師匠に座布団一枚!