2013.12.10
シリーズ・徒然読書録~『箱根駅伝 青春群像(佐藤三武朗著)』
あれもこれも担当の千葉です。
読書は好きで、常時本を持ち歩く癖が付いてしまいましたが、読み方は極めて大雑把、
何かしらからだのどこかに蓄積されていれば良いという思いで、雑然と読み流します。
その意味で、読者の皆様には退屈でご迷惑かとも恐縮しつつ、ブログに読書録なる
ものを記してみるのは自分にとって有益かも知れないと思い、始めてみました。皆様
のご寛恕を請うところです。
徒然なるままに読み散らす本の中から気に入った本、今回は『箱根駅伝 青春群像』
(佐藤三武朗著、講談社刊)のご紹介です。
著者であり、日本大学国際関係学部長の佐藤三武朗先生には、日頃から種々の
活動でご厚誼を戴いており、今回の出版記念チャリティー講演会にもお誘い戴き
ました。お忙しい公務の傍ら、先生はこれまでにも小説をお書きになって来ました。
私が読ませて戴いたものだけでも、『天城恋うた』、『天城少年の夏』、『修善寺ラ
プソディ』、『日本巨人伝 山田顕義』、『くれない燃ゆ 唐人お吉』と多数。個人的
には、日大の創立者にして維新の功臣、山田顕義公の伝記小説が素敵だと思
います。
本著は、2012年1月の第88回箱根駅伝を舞台にした、ドキュメンタリー小説で
す。2012年の大会は、往路・箱根の登り5区で『山の神』と名を馳せた東洋大学
の柏原選手が4年生として最後に挑んだ大会です。小説はいきなりこの4区から
5区への中継所の風景から始まります。この年には出場を逃し、解説者として第
一中継車に乗り込んだ日大の駅伝部長・陸上部長である『藤田』が語り部となっ
て、レースの進行から各チームの駆け引きまで、選手、監督、校友、ファンの心
理を解説しながら、箱根駅伝の舞台の表裏を描き出して行きます。作中に散り
ばめられた駅伝の起源や箱根駅伝の歴史、エピソードなどが、箱根駅伝の楽
しみ方を深めてくれます。
実際に佐藤三武朗先生は、日大の陸上部長として12年、駅伝部長も兼務され
ていましたが、2011年の大会では不本意にも最下位に沈み、途中繰上げスタ
ートとなったためにチームの『絆』の象徴とも言えるピンク色の襷を繋ぐことが
できずに号泣され、翌年2012年の大会には予選会で出場権を得ることができ
ずに無念に暮れました。このような失意の中で東北の被災地を訪ね、逆に元気
と勇気を貰い、一念発起して書かれたのが本著です。そのためか、本著では東
洋大の柏原選手(福島県出身)を始め、東北の被災地出身の選手達への暖か
な眼差しが印象的です。はしがきにある、『私は傍観者である。しかし、執筆に
当たって、選手と共に走った。野球の観戦者が、良き解説者となって応援する
ように、私も駅伝の監督となり、解説者となり、観衆の一人となった。』という佐
藤先生の言葉が良くこの小説のスタンスを表しています。
以下印象的なくだりを抜き書きしてみます。
『箱根駅伝の背景となるものを描くことが、大事であると思った。箱根駅伝を成
功させるには、地域の人々の協力が欠かせない。もちろん、主役は選手であ
る。しかし、補欠選手を初め、走路員や交通指導員、さらにはボランティアの
方々など、選手を支える人たちの力があればこそ、駅伝は成功する。箱根駅
伝は総合芸術である。』(はしがき)
『駅伝には日本人の精神が息づいている。』(本文)
『選手は、途中で走行の棄権を認められない。最後の最後まで、チームを
思い、襷を引き継いで走らなければならない。駅伝には支え合い思いやる
心、わが身を滅ぼしても成し遂げる魂がある。そのドラマに、観衆は酔いし
れる。』(本文)
これは本の背表紙です。表表紙で2位のピンクの襷(日大の襷のカラー)が、
背表紙ではトップにたっています。佐藤先生の願いを込めたお茶目な発案だ
と聞きました。