2014.01.27
シリーズ・徒然読書録~『悪いのは私じゃない症候群』
大寒は二十四節気の最後の節気、月が明ければすぐに立春。『春隣(はるとなり)』
はそんな今の時期を表す言葉で、冬の季語だそうです。ここ三島でのこの週末は
最高気温が16~17度にもなり、一年で最も寒い時期に、春の兆しもそこかしこに。
日当たりの良い縁側のアマリリスは早くも蕾を膨らませ始めました。
あれもこれも担当の千葉です。
読書は好きで、常時本を持ち歩く癖が付いてしまいましたが、読み方は極めて大雑把、
何かしらからだのどこかに蓄積されていれば良いという思いで、雑然と読み流します。
その意味で、読者の皆様には退屈でご迷惑かとも恐縮しつつ、ブログに読書録なる
ものを記してみるのは自分にとって有益かも知れないと思い、始めて見ました。皆様
のご寛恕を請うところです。
徒然なるままに読み散らす本の中から気に入った本、今回は、香山リカ著『悪いのは
私じゃない症候群』(ベスト新書)。
小泉自民大勝の郵政民営化選挙、小沢民主大勝の政権選択選挙、そして安倍自民
大勝のデフレ反動選挙。小選挙区制の欠点とは言いながら、どうして最近は雪崩(な
だれ)式に極端な投票行動になってしまうんだろう?選挙権年齢の引下げ(法案は不
成立でしたが)が議論されていますが、少年法適用年齢を据え置いたまま選挙権年
齢を引下げれば義務や責任は果たさずに権利ばかり主張する風潮を助長するだけ
ではないか?などと考えていた3~4年前に巡り会ったのが、精神科医で心理学者の
香山リカ氏の著書『悪いのは私じゃない症候群』。大変示唆に富み、面白い本です。
「モンスター・ペアレント」、「クレーマー」、「ブログ炎上事件」など、一体どうしてこんな
に攻撃性の強い世の中になってしまったんだろうと戸惑う事象が多い。日本はむしろ、
「申し訳ありません、私が至らなかったばかりに。私のせいなんです、ごめんなさい。」
と必要以上に「悪いのは私のせい」と自分を責めるタイプが多い社会だったのが、いつ
から「悪いのは私じゃない、あなたのせいですよ」の大合唱の社会になってしまったの
か。
著者は、自分のことは棚に上げ、悪いのは自分でないとし、相手・他人・職場・上司・
学校・病院・政治・社会・環境など所謂自分以外の他者を攻撃する日本人が増えて
いる、という。中には、自分がお腹を痛めて産んだ我が子を攻撃する母親まで増加
していると言うから驚きです。そしてこうした社会的病理を『悪いのは私じゃない症候
群』と名付け、負けたら立ち直れないとか、いつ自分が否定されないとも限らないと
いう恐怖心から、「勝つためには負けられない」 ⇒ 「負けないためには攻撃される
前に相手を攻撃する=相手を悪者にする」という心理的な背景を指摘している。子供
の中にはいじめられないためにいじめる側にまわる者がいるのと同じだという。
「ブログ炎上事件」のように、匿名性の強いネット世界と結びついた時には、「ゆがん
だ正義感」が横行し、その言動の背後には「快感」まで見え隠れする、という。
余りに挙げるべき事例が多すぎて、原因分析と対策に十分な紙面を割けなかった、
とあとがきで著者自身が認めているように、『悪いのは私じゃない症候群』が生まれた
原因が突然に導入された小泉政治の新自由主義・成果主義にあり、対策は悪いの
は私じゃないと言わない勇気を持つことだと結論付けているのは、あまりにも短絡的
でお粗末な感を免れないでしょう。が、このまま放置されて良い問題ではなく、個人と
してはもとより、教育として、社会として、政治としても原因の分析と、治療のための
具体的な取り組みが必要ではないかと感じました。