2014.08.19
シリーズ・徒然読書録~中西輝政著『日本人が知らない世界と日本の見方』
あれもこれも担当の千葉です。

 

読書は好きで、常時本を持ち歩く癖が付いてしまいましたが、読み方は極めて大雑把、

何かしらからだのどこかに蓄積されていれば良いという思いで、雑然と読み流します。

その意味で、読者の皆様には退屈でご迷惑かとも恐縮しつつ、ブログに読書録なる

ものを記してみるのは自分にとって有益かも知れないと思い、始めて見ました。皆様

のご寛恕を請うところです。

 

徒然なるままに読み散らす本の中から気に入った本、今回は中西輝政著『日本人が

知らない世界と日本の見方』(PHP文庫)。ブログでは如何なる政治的、宗教的な主張

もしないのが信条ですので、今回の本の選択も、政治的な主張ではなく、アカデミック

な興味から取り上げたものとお考え戴けたら幸いです。

 

さて、この本はリーマンショック直前の2008年4月~7月に京都大学で『現代国際政治』

という講座名で行われた講義をまとめたもので、学生に語りかける形式となっています。

 



恐らくは出版社の商業上の理由からこの大袈裟なタイトルが付けられたのでしょうが、

内容的には国際政治学の導入部分としての現代国際政治の見方とでもいった、アカデ

ミックなものです。いくつか興味を持った論点を列挙してみようと思います。

 

・いずれ大きなカタストロフィが来るか、ギリギリで気づいて『血みどろ』になって立て直し

をするか、いま日本は戦後最大の曲がり角に差しかかっているといえるが、リーダー

層にどのような国家運営をすべきかを考える能力と気力がない。

 

・このまま日本のジリ貧構造が続けば、確実に国家の衰退がやってくる。これは過去の

歴史を調べると、百年ほど前のイギリスと同じで、際限のない海外移転や国際化の

結果としての大英帝国崩壊という歴史と重なっている。

 

・第1次世界大戦は、世界史上初の国家総力戦で、欧州文明にとっては歴史的衝撃と

なった。民主主義国の政府の無能と欺瞞に人々の目が向けられ、近代科学や民主

主義といった『進歩の象徴』への信頼が決定的に揺らぎ、欧州近代文明の大きな挫折

となった。その意味で、第1次世界大戦は現代文明の『分水嶺』だった。

 

・戦争を引き起こすのはむしろ『正義』であり、『道徳的憤怒』である。

 

・今の日本に広がっている、グローバリゼーションが永遠に続くかのような議論は間違

いで、それには必ず揺り戻しがある。行きつ戻りつしながら何百年という単位で一つの

方向へ向かって行く。つまりグローバリゼーションとナショナリゼーションを繰り返しなが

ら、近代史は動いて行く。ハンティントンは『文明の衝突』で、冷戦後の世界は文明

単位のまとまりと衝突となると予想したが、私(著者)はやはり『国家』が改めてクローズ

アップされる時代となると考える。

 

・幕末・明治の日本の世界史的状況は、東は米国、北はロシア、西からは大英帝国を

はじめとする欧州列強から同時に脅かされた、世界史的にも極めて特殊な状況で、

日本が軍事大国を目指さざるを得ない宿命的な要因があった。地政学的な見地から、

パックス・アメリカーナが終焉すれば状況は再び似たような宿命に直面する可能性

がある。

 

・世界政治は、一超多強が最も安定する構造。一超と多強に大きな力の差があれば

あるほど安定し、他強の中から一超に挑戦するような勢力が出て来ると不安定化する。

この意味で、第1次世界大戦は中東や極東で南下を目指すロシア(多強)が、それを

阻む大英帝国(一超)に挑戦すべくフランス(多強)と結んだ露仏同盟が伏線となった。

(結果としては露仏同盟が新興のドイツ(多強)と衝突したことが直接の原因となったが。)

 

・この露仏同盟は近代日本の方向にも決定的な影響を与えた。日清戦争後の下関条約

で割譲された遼東半島を露仏+独の三国干渉で放棄せざるを得なかった日本は日露

戦争へと突き進むこととなった。

 

・英米と2百年続いたアングロサクソンの覇権(一超)に対し、多強の内の2か国以上が

同盟関係を築き対抗した場合(ギャングアップ構造という)、パックス・ブリタニカは終焉

を迎えたし、パックス・アメリカーナも揺らぎ得る。このことを踏まえて日本が取るべき

方向は一体どういうものであるべきか。

 

・ 日本が生き残るためには、一超を目指すことは無理であっても、『その他』の第三

グループになってしまうのではなく、第二グループ、多強に何とか留まり続けるための

覚悟・決意と努力が必要な時に来ている。

 

中西輝政氏の著作は以前にも『なぜ国家は衰亡するのか』(PHP新書)を読んだことが

ある。



西ローマ帝国(対比としてビザンツ帝国、ベネツィア)、スペイン帝国、大英帝国が

衰亡して行った原因を分析し、国家の衰亡は内なる荒廃、即ちモラルとモラール

(精神の活力)の減退による、と主張。日露戦争後の20年間とオイルショック後の

20年間の特にエリート層のモラルとモラールの減退の相似を指摘し、日本の現状

へ痛烈な警告を発する書として記憶している。著者のむすびのことばから抜粋して

終わりにしたい。『国家』を『企業』と置き換えてみるととても重みのあることばで、

企業経営者にとっても心せねばならないことばと受け止めました。

 

・日本が『国家目標』を喪失していることが今日の衰退の根本原因である。

 

・国家という視点の意識的な忌避、これが現代日本に見られる『虚ろなもの』の本質

のように私には思われる。そしてこれを克服しない限り、日本は本当の改革を成就

できないし、むしろ遠くない将来、逆転不可能な衰亡のプロセスへと入ってゆくはず

である。

 

・私にとってあるべき日本とは、一口でいえば、『自由で、活力に富み、伝統と歴史を

重んじて、世界で自立し名誉と協調を重んじる国』ということになる。ただ、ここでいう

自由とは、戦後的な『与えられた放縦』としての自由ではない。それは『モラルと両立

する自由』、『哲学ある自由』、『自己責任と自己決定の自由』でなければならない。

(中略)戦後の日本があまりにも多くを失ってしまったもの、それは自らの伝統と歴史

への誇りである。