2015.09.04
シリーズ・徒然読書録~『あの子が欲しい』と『ウサギはなぜ嘘を許せないのか?』
あれもこれも担当の千葉です。

 

読書は好きで、常時本を持ち歩く癖が付いてしまいましたが、読み方は極めて大雑把、

何かしらからだのどこかに蓄積されていれば良いという思いで、雑然と読み流します。

その意味で、読者の皆様には退屈でご迷惑かとも恐縮しつつ、ブログに読書録なる

ものを記してみるのは自分にとって有益かも知れないと思い、始めてみました。皆様

のご寛恕を請うところです。

 

徒然なるままに読み散らす本の中から気になった本、今回は2冊です。片や群像新人賞

作家の文学小説、片やビジネス寓話ですが、共通点とすると、企業や企業人、はたまた

一人の人間としての良心、コンプライアンスを取り扱っている点でしょうか。

 

1冊目は、朝比奈あすか著、『あの子が欲しい』(講談社刊)。



 

三十代半ばの転職組のヒロイン、川俣志帆子は、前年ネット掲示板でブラック企業の

ランキングトップになって採用ゼロだったIT企業の新卒採用プロジェクトのリーダーに

指名される。小説としてのクオリティには不満を感じましたが、社会問題になっている

就活がテーマで、窺い知ることのなかった現場情報を知り得たことと、女性らしい

心理描写が素敵でした。

 

『就活生の掲示板書き込みは採用側にも刃・・・皮膚の中から赤く剥け出て飛び散る

若く残酷な言葉たち・・・見過ぎるとネット脳になる、その手の見方しかできなくなる。』

 

『学生は皆、コピー&ペーストの操作に長けており、就活はマニュアル化されている。』

 

『「うちの噂を見張る子がひとり欲しいんだ。で、時々うまく軌道修正してもらうっていう」

「工作員ってことですか」「まあ、そんな感じ」「他者の批判はなるべくしないようにとも

言っておいて」「なるべく、だよ。絶対に、とは言ってないからね」』

 

『ネット上のコミュニケーションは元の信頼関係が希薄な分、ある意見を複数人が認めた

場合、もとの意見に対する信頼感の拡大率が大きい。不確定な情報があたかも事実と

化してゆくのを、これまで幾度となく見て来た。』

 

『やわ肌に鑢(やすり)をあて合うやり方でどこまで抉れるかを競うようなことをして、その

ばからしさに気づいていながら、気づいたら負けのように思っている。・・・ネット以前は、

人が人を思うさま侮辱したり批判する機会は今より少なかったんだと思う。』

 

『人の自尊心を大きく傷つけ人生を変えてしまうほどの就職活動。セクハラ面接、圧迫遺留、

不条理な拘束・・・他社がやっていることを読むと、青田買い交渉など、可愛いものに思えた。』

 

恋人とも上手く行かず、ネットの毒に蝕まれて、猫カフェの猫を誘拐することを想像する

ヒロイン。私の愚息も今年就職をしました。どのような経験をして来たかは殆ど話しません

が、心地良くない思いも沢山して来たのでしょうか。良い方向に昇華してこれからの社会人

生活に活かして欲しいものです。

 

『ゆっくり思い返して、息を吐いた。それからまた息を吸った時、自分が呼吸していることに

気づいた。呼吸に気づくと、吐くのも吸うのも少しだけ難しくなった。この虚しさは何なのか。

心に穴があいたようだ。そしてその穴は、ぽかんと空いた真っ白なものではなくて、その底に

どろどろと液状化した黒いものが波打つような、乱暴な抉れ方をしている。』

 

『誰も選びたくないし、誰からも選ばれたくない。』

 

リクルート・チームの仕事が成功を収めたあと、ヒロインが誘拐してまでも欲しいと思った

猫を譲り受けたが、その瞬間既に自分の欲しかった猫ではなくなっていた。

 

 

2冊目はマリアン・M・ジェニングス著『ウサギはなぜ嘘を許せないのか?』

(アスコム刊)。副題に、『後ろ指さされずに成功する新・ビジネス読本』と

あります。

 



 

主人公のエドには、母親のスピード違反に疑問を感じた時から、大ウサギの妖精の

アリがとり付く。アリは、アリストテレスをこよなく愛読し、ソローの言葉を引用し、道徳的

判断の段階的発達に関するコールバーグの理論に詳しく、正しくあることや道義心を

こよなく愛する妖精。『それじゃ正直じゃない、正しくない』とつぶやくアリのアドバイスを

受けてエドは学生時代にはカンニングや他人のレポートを使うことに異を唱え、社会人に

なっても友人のコンプライアンス違反に目をつぶれず、長く勤めを続けられない。が、最後

にはアリの助言を受けて起業、成功を収めるという寓話。

 

ビジネス書ということで、書評の余地もないので、ウサギのアリの七つの教えを列挙して

終わります。

1.ほかのみんながしていることによって、自分の倫理観をこしらえてはいけない。ほかの

人たちが正直で正しいことをしているとは限らないのだから。

2.正直で正しいことをした報酬は、受け取るまでに時間がかかる。

3.二者択一という難しい選択をすることによって倫理的な問題を考えてはいけない。

選択肢はきっと、ほかにもある。

4.短期間で手に入るものに惑わされないこと。短距離走者たちはいずれつまづく。彼らに

追い越されても自信をなくさないこと。

5.何も言わないことによって引き起こされる結果は、声を上げることによって引き起こ

される結果より、つねに深刻である。

6.正しいことをした場合の結果と間違ったことをした場合の結果を冷静に考え、正しい

ことをすることによってもたらされるチャンスを活かすこと。

7.心にみじんも重荷を感じることなくレースを終えることこそが、本当のゴールである。

寝ても覚めても嘘のことが頭から離れない、そんな状態でないことが、どれほど自由

かをよく考えること。