2015.05.10
佐野美術館『浮世絵名品に見る「青」の変遷展』
あれもこれも担当の千葉です。
先日、三島市が誇る佐野美術館で『浮世絵名品に見る「青」の変遷展』を鑑賞して
来ました。
礫川(こいしかわ)浮世絵美術館から日本を代表する浮世絵の数々100余点を
お借りしての展示で、版画はこの世にたった一枚しかないという訳ではありませんが、
普段教科書の中で見る名作の数々の『本物』を間近でお目に掛れるもので、私のよう
な田舎者にとっては又とない機会となりました。
しかも今回の展示は、青色絵具にこだわった展覧構成で、数々の青色絵具の変遷に
よって浮世絵がホップ・ステップ・ジャンプと発展して行く様が、とても説得力をもって
語りかけて来るとても優れた企画です。
5月31日(日)までの開催です。是非一度足をお運びになられては如何でしょうか。
さて、ガイドブックに従って『青の変遷』を見てみましょう(全くの受け売りです!)。
17世紀後半に、挿絵から一枚摺りの墨摺版画として浮世絵が流行する。無名の絵師
の中から、初めて名前が記載された菱川師宣が浮世絵の開祖とされる。じきに絵画と
しては彩色が求められ、赤系統の着彩が施されたのが丹絵(たんえ)、紅絵(べにえ)
と呼ばれたが、青色は殆ど見られなかったそうです。
いよいよ『青』が登場するのはその後の18世紀。筆彩色ではなく、2~3色摺りの
版彩が商業的に求められるようになってからで、これは紅摺絵(べにずりえ)と呼
ばれるそうです。18世紀後半の鈴木晴信、喜多川歌麿などの時代になると、単調な
紅摺絵から多色摺版画の錦絵と呼ばれるようになります。使われた『青』は藍。
紅摺絵期の末期や錦絵では露草青が主流になりますが、どちらもくすんでいたり、
光に弱く退色・変色し易く、後世にはその色が残っていません。
(石川豊信・藍)
(喜多川歌麿・露草青(紫))
18世紀末に突如、非退色で鮮明な淡青色を引っ提げて登場したのが東洲斎写楽
でした。写楽が使った『青』は藍の改良型。展示を時代を追って見て行く中で、初めて
お目に掛った『青』です。
(東洲斎写楽・藍)
19世紀前半には、殆どの『青』がこの非退色の藍になっていましたが、大量製法が
困難、不溶性で「ぼかし」技法に向かないなどの難点がありました。この藍の難点を
克服したのが、舶来のベルリン・ブルー(ベロ)。水に良く溶け、光や酸化に強く、澄明
な色調は淡水色から濃紺色まで着彩でき、しかも『青』のぼかしは遠近法による広がり
を描き易くさせました。そうして登場したのが富嶽三十六景の葛飾北斎であり、東海道
五十三次の歌川(安藤)広重であったという訳です。
(葛飾北斎・神奈川沖浪裏・ベロ)
(葛飾北斎・山下白雨・ベロ)
(葛飾北斎・凱風快晴(赤富士)・ベロ)
(歌川広重・真崎暮春之景・ベロ)
(歌川広重・庄野 白雨・ベロ)
以上はガイドブックの受け売りですが、その解説が年代を追いながら展示を見て行く
ととても説得力があり、判り易かったです。おまけに、歌川広重の有名な『蒲原』も、
霧の『三嶋』も雪の『三嶋』も展示されています。必見の展覧会と感じました。
また、北斎の神奈川沖浪裏がどのように摺られて行くかを展示し、ビデオ上映もされ、
一層興味を持たせてくれます。
因みに、歌川(安藤)広重の『青』は、欧州で『ヒロシゲ・ブルー』と呼ばれたそうですが、
絵具とすれば実は『ベルリン・ブルー』だったという訳です。