2020.09.05
シリーズ・徒然読書録~山崎ナオコーラ著『リボンの男』
あれもこれも担当の千葉です。
読書は好きで、常時本を持ち歩く癖が付いてしまいましたが、読み方は極めて
大雑把、何かしら記憶のどこか、心の片隅にでも蓄積されていれば良いという
思いで雑然と読み流しています。暫くするとその内容どころか読んだことさえ
忘れてしまうことも。その意味で、読者の皆様には退屈でご迷惑かとも恐縮し
つつ、ブログに読書録なるものを記してみるのは自分にとって有益かも知れない
と思い、始めてみました。皆様のご寛恕を請うところです。
徒然なるままに読み散らす本の中から今回取り上げるのは、山崎ナオコーラ著
『リボンの男』(河出書房新社刊)。
2004年に『人のセックスを笑うな』という衝撃的?な題名の小説で
メジャー・デビューした著者の直近の小説です。デビュー作他2,3作品
を読んで好印象の記憶があり、図書館で見掛けて手にとってみましたが、
『イクメン』、ジェンダー・フリーの時代とは言いながらまだまだ社会的
な障壁の多い現在、とても時宜を得たテーマでした。
主人公の『妹子』こと小野常雄は、書店の店長であり執筆活動もしている
妻のみどりに仕事を続けてもらい、自らがアルバイトを辞めて『主夫』と
して3才になるタロウの育児を中心とした家事を担っている。
『ヒモ』『時給マイナスの男』
タロウの保育園への送迎だけでも3時間を費やす自分は、非生産的で社会
に貢献できていないのではないかと不安になる妹子。そんな妹子に『主夫』
の価値、『時給マイナスの男』の価値を気付かせてくれたのは、3才の我が
子タロウだった。
『(タロウが虫や花の名前を知りたがり、細分化したがることを受けて)
世界を広げることを成長と呼ぶのだとこれまでの妹子は思っていたが、世界
を細分化するのも成長かもしれなかった。そう考えると自分も救われる。子
どもが生まれてからますます自分の世界が小さくなったことにしょげていた。』
『(庭先に来るケガをしている野生のタヌキのために動物病院に薬を貰いに
行った後)動物病院に行く、ということは費用がかかる。「時給かなりマイナス
の男」にまたなるわけだが、「どういうところで消費をするか?」で主夫の
力量を試される』
『こういう朝の散歩もいいもんだね。豊かな時間っていうかさ・・・時給が
マイナスなのも悪くない・・・自分の家族を幸せにするって仕事だけじゃなく
って、主夫業界の底上げをしたいし、主夫文化を盛り上げたいし、世界を良く
したい・・・直接、金を稼いでいないことに引け目を感じていたけど、そんな
の良くないよな。これからは、やりがいを感じる仕事をしたときは、もっと
堂々としようかな』
『「行ってらっしゃい」という挨拶に対して「黒トンボがわかりました」と返
して構わないと考えるタロウの謎のセンスを、この先どうやって導いていけば
いいのか』
『リボンみたい』『ああ、ハグロトンボって、黒いリボンみたいだよね。ひら
ひら飛ぶからね』『お父さんもねえ、ヒモじゃないんだよ。ヒモじゃなくリボン
だよ!』『そうだねえ、お父さんもリボンになろう。ヒモはやめてリボンに
なるね』・・・『新しい経済活動をするリボンの男になったら?』
『主夫』となる男性の側からの気付きや主張と単純に受け止めてしまっては、
世の女性陣から大目玉を喰らいそうです。なぜなら『主婦』は太古の昔から
『時給マイナス』の不安と蔑みに耐え忍んで来たのですから。ジェンダー・
フリーの問題は、各々の役割を評価し尊重し感謝することでもあると改めて
気付かせてくれる小説でした。