2019.07.11
シリーズ・徒然読書録~金子夏樹著『リベラルを潰せ』
あれもこれも担当の千葉です。
読書は好きで、常に本を持ち歩く癖が付いてしまいましたが、読み方は極めて
大雑把、何かしら記憶のどこか、心の片隅にでも蓄積されていれば良いという
思いで雑然と読み流しています。暫くするとその内容どころか読んだことさえ
忘れてしまうことも。その意味で、読者の皆様には退屈でご迷惑かとも恐縮し
つつ、ブログに読書録なるものを記してみるのは自分にとって有益かも知れない
と思い、始めてみました。皆様のご寛恕を請うところです。
徒然なるままに読み散らす本の中から今回取り上げるのは、金子夏樹著『リベラ
ルを潰せ』(新潮新書)です。
副題の『世界を覆う保守ネットワークの正体』や、帯のキャッチ・コピーにあ
る『佐藤優氏、推薦!プーチンとトランプを生み出した思想的背景がよくわか
る。世界を突き動かす保守の力を見事に解明した名著。』にあるように、『リ
ベラリズムの世界的浸透に対し、反撃を始めた保守ネットワークの全貌を綿密
な取材で描き出す、日本にも迫る価値観の戦争』の現状を紹介する入門書です。
ブログやSNSでは一切政治的・宗教的な主張をしないのが私のモットーなの
で、今回も全くそういった意味での意見表明ではありませんが、大阪でのG20
開催に際してつい最近の日経新聞の記事に、ちょうどプーチン大統領の自由主
義の限界に関する主張が掲載されていたので、タイムリーな話題かとも思いま
した。なにより、国際政治の対立軸が、西洋vs東洋、資本主義vs共産主義、個
人主義vs全体主義、キリスト教vsイスラム教、ユダヤvs非ユダヤ、ユダヤ左派
vs右派、多極主義vs覇権主義、先進国vs新興国などに加えて、もう一つ付け足
さねばならないのだと自分への備忘録としても取り上げてみました。
要約してみると、以下のようなことでしょうか。≪リベラリズムや個人主義の
浸透によって社会の規範性が薄れ、価値観の過度な多様化が却って社会の不安
感を増幅させ、人々の幸福感が後退している。今こそ聖書の教えに忠実に、家
族を基本とした社会の絆・一体感が求められている、と主張する有力な組織・
団体が、一方では米国のトランプ大統領の有力な支持母体であるキリスト教右
派・世界家族会議であり、もう一方ではギリシャ正教(ローマ帝国、即ちヨー
ロッパそのもの)の正当な後継者を自任するロシア正教会でありプーチン大統
領である。この両極は水面下でも繋がっており、ヨーロッパの極右・ナショナ
リズム政党やイスラムとも親和力が高い。≫
最後に、印象的な文章を抜き書きして終わります。
『本書のテーマはプーチンとトランプを底流で結ぶ、この「反リベラル」とい
う思想だ。ブキャナンは「21世紀は伝統・保守主義と急進的な多文化・リベ
ラル主義が対立の軸となるかもしれない」と予測する。・・・キリスト教右派
の見立てではリベラル主義全盛の時代は続かず、これからは対立軸として伝統
や宗教に基づいた保守反動が盛り返す。価値観を巡る対立、いわば文化の対立
が激化するとみるのだ。』
『個人が自己実現を重視する社会で、かつての子供中心の社会は、自分中心の
社会に置き換えられた。・・・子供の出生をめぐり、個々人の利益と社会の利
益が相反するようになった。』
『ロシアとアメリカ両政府が多くの国際問題で深刻な対立を続ける一方、トラ
ンプとプーチンは互いへの心情的な共感を隠そうとしない。トランプはロシア
との関係改善を強く求め、対ロシアの追加制裁に後ろ向きな姿勢を見せる。』
『保守反動の台頭を許したのは、リベラル派に巣食う問題でもある。アメリカ
の政治学者、マーク・リラはリベラル派が人種、性別、性的指向、階級、年齢
などそれぞれのアイデンティティを重視するようになった結果、市民として同
じ社会を共有する意識を失ってしまったと嘆く。多様性や個人の尊重という美
名のもと、人々は社会全体のことよりも、みずからが所属するアイデンティテ
ィの権利を声高に唱えるようになった。リベラル派は小さなグループに細分化
し、過激な個人主義がはびこる懸念はいつになく高まっている。保守反動ネッ
トワークは、敵失を見逃さない。ロシアはアメリカの大統領選で世論を分断す
るネット工作を仕掛けたように、社会を二分することがライバル国の弱体化に
つながることを認識している。ロシアは反リベラル派のリーダーとして価値観
をともにする同盟国相手を世界に張り巡らし、国際社会で地歩を固めるしたた
かさを持っている。』