2019.05.10
シリーズ・徒然読書録~佐藤三武朗著『炎の銀行家』
あれもこれも担当の千葉です。
読書は好きで、常時本を持ち歩く癖が付いてしまいましたが、読み方は極めて
大雑把、何かしら記憶のどこか、心の片隅にでも蓄積されていれば良いという
思いで雑然と読み流しています。暫くするとその内容どころか読んだことさえ
忘れてしまうことも。その意味で、読者の皆様には退屈でご迷惑かとも恐縮し
つつ、ブログに読書録なるものを記してみるのは自分にとって有益かも知れない
と思い、始めてみました。皆様のご寛恕を請うところです。
徒然なるままに読み散らす本の中から今回取り上げるのは、佐藤三武朗著
『炎の銀行家』(栄光出版社刊)です。
副題が『スルガ銀行創業者 岡野喜太郎』とあるように、昨今シェアハウス
『かぼちゃの馬車』を運営するスマートデイズやその投資家への不正融資で
問題になっている最中の出版となってしまったため、話題性を当て込んだ著作
に勘違いされそうですが、出版時期は全くの偶然で、著者の郷土や郷土の偉人
などを広く知ってもらうことで顕彰しようという一連の力作の一つです。
本著の主人公、岡野喜太郎は現在の静岡県沼津市の浮島を見下ろす青野に生ま
れました。武田家の武将に繋がる名主の家で、地域や住民のために尽くす父祖
の背中を見て育ちます。明治初期に、沼地である浮島地区が、風水害と、西南
戦争を発端とした恐慌に襲われた時にも、父・彌平太は役所に地租の減免・猶予
を願い出て熱心に説得し、暴動を起こすこともなくこの難局を乗り切りました。
そんな状況を見ていた喜太郎は、将来の災害や難局に備えて、村全体で貯蓄組合
を作ろうと決心。これが明治28年設立の根方銀行となり、駿東実業銀行を経て
大正元年に駿河銀行となります。関東大震災では奥様と娘さんを亡くしながらも
銀行の再建に奔走します。預金の引き出しが殺到して幾つも幾つも銀行が破綻す
る中で、『預金のお支払いをします。ただし当分一人百円まで。』という方針が、
却って信用・安心感を獲得して逆に預金が集まり、益々基盤を固めたといいます。
また、先の戦争末期には、当局の一方的な静岡銀行との合併の要求を断固として
拒否し、目論んでいた伊豆銀行との合併も邪魔されながら(伊豆銀行は静岡銀行
と合併した)、時代を切り開いて来ました。
大正初期のエピソードです。沼津から三島を経て伊豆の大仁に至る電気鉄道の
運営会社『駿豆電気鉄道(現在の伊豆箱根鉄道の前身)』の再生に奮起します。
この案件に関連して、文中で喜太郎が語った『事業家に、モラルがなくなった
ら、おしまいだ。投資家ばかりか、地域住民にも迷惑をかける、モラルのない
資本家は、事業に参加すべきではない』という言葉は、事業家・経営者たる者
として、肝に銘じねばならぬことだと思いました。