2018.10.29
シリーズ・徒然読書録~辻村深月著『かがみの孤城』『朝が来る』
あれもこれも担当の千葉です。

 

読書は好きで、常時本を持ち歩く癖が付いてしまいましたが、読み方は極めて

大雑把、何かしら記憶のどこか、心の片隅にでも蓄積されていれば良いという

思いで雑然と読み流しています。暫くするとその内容どころか読んだことさえ

忘れてしまうことも。その意味で、読者の皆様には退屈でご迷惑かとも恐縮し

つつ、ブログに読書録なるものを記してみるのは自分にとって有益かもしれない

と思い、始めてみました。皆様のご寛恕を請うところです。

 

徒然なるままに読み散らす本の中から今回取り上げるのは、直木賞作家・辻村

深月著『鏡の孤城』です。今年の本屋大賞受賞作と新聞広告で知り、図書館で

借り出して読んでみました。



中学入学早々にいじめを受け、家に引きこもり外に出られなくなった主人公

の安西こころ。部屋の『鏡』姿見が眩く光り吸い込まれると、そこは『かが

みの孤城』。狼の仮面をつけた少女『オオカミさま』と、少女から『赤ずき

んちゃん』とよばれるこころを含めた中学生男女7名。皆、学校に行けない

それぞれの事情を抱えている。『かがみの孤城』には何でも一つだけ願いを

叶えてくれる『願いの間』とそこに導く『願いの鍵』があり、7人がそれを

探すこととなる。

 

現実の世界と異なり心地良かった城で次第に打ち解け、城だけが安心できる

場所になった。そして7人が同じ中学の生徒だとわかり、現実世界でもお互い

が助け合える仲間だと思うまでになる。城が消滅する期限まで残すところ1日

となった時、現実世界に戻りたくない一人ががルール違反をし、その時城にい

なかったこころ以外の6人が狼に食われてしまう。そして残されたこころが

『願いの鍵』を探し出し皆を救い出す。

 

その大団円にどんでん返しが幾つも用意されていて、、、。

 

 

『誰かに、悪くないよ、と言ってほしかった』

 

『気付いてほしい、という願望だ。なのに言えない。・・・この先生なら、

きっとちゃんと聞いてくれる、と思えるのに。大人だからだ、と思う。この

人たちは大人で、そして正しすぎる。』

 

『残るものが記憶だけ、なんてことはない。この一年近く、ここで過ごした

こと、友達ができたことは、これから先もこころを支えてくれる。私は、友

達がいないわけじゃない。この先一生、たとえ誰とも友達になれなかったと

しても、私には友達がいたことがあるんだと、そう思って生きていくことが

できる。それが、こころの中でどれだけ大きな自信になるか、計り知れない。』

 

 

色々な伏線がどんでん返しに繋がって行くミステリー仕立てのファンタジー

小説。文章自体はとても平坦でありながら、いじめの始まりやエスカレート

する過程での首班者、取り巻きの心理、いじめを受ける側の心理、親の心理

などが丁寧に、そして巧みに書かれていました。

 

 

実は辻村深月氏の小説は2年ほど前にも読んだことがありました。



親子三人で穏やかに暮らす家族に、息子の産みの親(当時14歳、現在

20歳)からの突然の電話。子を産めなかった者、子を手放さねばなら

なかった者、両者の葛藤と人生が、平坦ではありますが丹念に描かれて

います。

 

 

『受話器の向こうには、本当に人がいるのかいないのかもわからない、

塗り込めたような沈黙が蹲っている。』

 

『血のつながった実の親と喧嘩のような話し合いをしながら、家族は、

努力して築くものなのだと、思い知る。血のつながりがあるからとい

って怠慢になっていては築けない関係』

 

『家族って、なんだ。打ちひしがれるように、思っていた。家族って、

親戚って、なんだ。私はいつになったら、この人たち家族や親戚をやめ

られるのか。いつまでこの母の娘であればいいのか。』

 

 

産みの親にとっては夜・暗闇の始まりであっても、長い不妊治療の末に

養子を得た夫婦には、長い暗闇を抜けて朝の光が来たのと同じでした。

 

特別養子に出した後、両親との確執から家を出、懸命に生きる産みの親を

襲った小さな悪意が、彼女を坂から転げ落とします。想いと現実のパラド

ックスに悩み傷つき、子供の親としての純真で健気であるべき自分との乖離

に、生きる意味を失った産みの親に訪れるクライマックスは?

 

育ての親、子供、産みの親と語り手が入れ替わり、サスペンス仕立てで物語

が展開して行く構成は、『かがみの孤城』とも共通の特徴でした。