2017.01.11
シリーズ・徒然読書録~ジェイコブ・ソール著『帳簿の世界史』
あれもこれも担当の千葉です。

 

読書は好きで、常時本を持ち歩く癖が付いてしまいましたが、読み方は極めて大雑把、

何かしら記憶か心のどこか片隅に蓄積されていれば良いという思いで、雑然と読み流

してしまいます。その意味で、読者の皆様には退屈でご迷惑とも恐縮しつつ、ブログ

に読書録なるものを記してみるのは自分にとって有益かも知れないと思い、始めて

みました。皆様のご寛恕を請うところです。

 

徒然なるままに読み散らす本の中から気に入った本、今回はジェイコブ・ソール著、

村井章子訳、『帳簿の世界史』(文芸春秋社刊)です。



裏扉にはこんなコピーが書かれています。『これまでの歴史家たちが見逃してきた「帳簿

の世界史」を、会計と歴史のプロフェッショナルが、初めて紐解く。なぜスペイン帝国は栄え、

没落したのか。なぜフランス革命は起きたのか。』



ⅠやⅤ、Ⅸ、ⅩⅤⅡと言ったローマ数字から、1や5、9、17と言ったアラビア数字の普及

に伴い、1300年頃、トスカーナや北イタリアを発祥の地とする複式簿記の登場は、損益と

財政状況を把握し表す上で画期的な効果を上げ、資本主義と近代政治の幕開けを意味

しました。本書は、この複式簿記を軸として、歴史上の国家や権力の盛衰を論じた、誠に

珍しく面白い歴史書、会計論だと思います。

 

繁栄を極めたメディチ家が新プラトン主義のエリート思想に傾き会計実務を軽んじたこと

から凋落を始め、プロテスタントの勤勉さで複式簿記を採り入れたオランダが『太陽の

沈まぬ国・スペイン』を沈め、複式簿記での財政把握を怠ったブルボン朝が傾き、隆盛を

極めた絶対王政も、財政状況を国民に開示されることで神性を剥ぎ取られギロチン台の

露と消えて行く。こうした面白い歴史観が繰り広げられます。その目次の見出しを並べて

みましょう。きっと興味が湧くのではないでしょうか。

 

1.帳簿はいかにして生まれたのか

2.イタリア商人の「富と罰」

3.新プラトン主義に敗れたメディチ家

4.「太陽の沈まぬ国」が沈むとき

5.オランダ黄金時代を作った複式簿記

6.ブルボン朝最盛期を築いた冷酷な会計顧問  (コルベールのことです)

7.英国首相ウォルポールの裏金工作

8.名門ウェッジウッドを生んだ帳簿分析

(ウェッジウッドの創始者はダーウィンのおじいさんでもあったんですって!)

9.フランス絶対王政を丸裸にした財務長官  (ネッケルのことです)

10.会計の力を駆使したアメリカ建国の父たち

11.鉄道が生んだ公認会計士

12.「クリスマス・キャロル」に描かれた会計の二面性

13.大恐慌とリーマン・ショックはなぜ防げなかったのか



どうですか?興味が湧いて来たでしょう?

おしまいに、著者の結論めいた点を2点ご紹介して終わります。

 

まず、一つ目。

財政の責任を継続的に果たし続けた完璧な国家は一つとして存在しない。企業と政府

の会計責任は、民主主義社会においても未だに確立されていない。社会の公平なレフ

ェリーたるべき会計士事務所が、その専門性と情報力を武器に、コンサルティング業務

を兼務するようになり、エンロン事件やリーマン・ショックが準備されて行く。そしてリーマ

ン・ショック後の状況は更に悪化している。ビッグ8ならぬビッグ4は、大き過ぎて潰せな

いが、さりとて弱すぎて企業監査を十分に行えないままで、更には政府の会計責任は一

向に改善されず、世界の多くの国で政府の財政は無秩序化している。謂わば、世界経済

の破綻は世界の金融システムに組み込まれており、『清算の日』は必ず来る。

 

そして、二点目。

これに備えるには、会計を文化の中に組み込むことだ。ルネサンス期のイタリア都市共和

国家、黄金時代のオランダ、18世紀から19世紀の英米社会では、会計が教育に採り入れ

られ、宗教・倫理思想・芸術・哲学・政治思想に根付いていた。こうした社会は繁栄すること

を歴史が教えている。

 

読んで1年以上経ってしまいましたが、ここ数年で読んだ中で、最も楽しい本のうちの一冊

です。