2014.05.16
徒然読書録~山崎豊子著『約束の海』
あれもこれも担当の千葉です。

 

読書は好きで、常時本を持ち歩く癖が付いてしまいましたが、読み方は極めて大雑把、

何かしらからだのどこかに蓄積されていれば良いという思いで、雑然と読み流します。

その意味で、読者の皆様には退屈でご迷惑かとも恐縮しつつ、ブログに読書録なる

ものを記して見るのは自分にとって有益かも知れないと思い、始めてみました。

皆様のご寛恕を請うところです。

 

徒然なるままに読み散らす本の中から今回ご紹介するのは、山崎豊子著『約束の海』

(新潮社刊)。



これまで自らの入念な調査に基づき、独自の切り口から多くの社会問題を小説を

通して世に問い掛けて来た著者の遺稿となった小説です。

 

中国、ロシアなど各国の原子力潜水艦が傍若無人に日本の領海内を行き来する

状況下で、主人公の海上自衛隊の若き士官が乗船する潜水艦が民間の釣り船と

衝突。日頃から確執のある海上保安庁やマスコミから過酷、不当な扱いを受ける

自衛隊員。

 

「戦争をする自衛隊なら、存在意義があるとおもっているのか」

「そうは云っていません、ただ、国防の仕事に就いている人たちは、どこの国でも、

国民に敬愛されこそすれ、こんなに嫌悪されているのは日本だけでしょう、自衛隊

が隊員に教えていることは、現実とあまりにかけ離れている、自衛隊の最高指揮官

は内閣総理大臣とは云え、その総理以下の政治家も官僚も、事故が起きれば、

保身に汲々として、隊員をまるで犯罪人呼ばわりする、こんな国の自衛隊って

何なのか、、、」

 

先輩との会話に苦悩を吐露する主人公が、米国海軍への研修でハワイに派遣

されることが決まるまでが本著、約束の海の第一部・潜水艦くにしお編。ここで

絶筆となっており、その後に続く第二部・ハワイ編(真珠湾攻撃時に米軍の捕虜

となり、武器を持たない戦いを強いられた父親の足跡をたどる)と第三部・千年の

海編(最新型潜水艦の艦長となった主人公が東シナ海での戦争の火種となり

かねない事態に直面し、第二次大戦の犠牲者が眠る海を、武力でなく如何にして

鎮魂の海として静かに守ることができるか)は、著者やスタッフの準備資料から

シノプシスとして紹介されています。

 

その意味で序論だけで終わってしまっており、全く以て消化不良ですが、執筆に

あたっての下記の著者の言葉は感動的で、完成が日の目を見なかったことは

本当に残念でなりません。

 

「戦争は絶対に反対ですが、だからといって、守るだけの力も持ってはいけない、

という考えには同調できません。いろいろ勉強していくうちに、『戦争をしない

ための軍隊』、という存在を追及してみたくなりました。尖閣列島の話しにせよ、

すぐにこうだ、と一刀両断に出来る問題ではありません。(略)そこを読者の皆さん

と一緒に考えていきたいのです。(略)戦争は私の中から消えることのないテーマ

です。戦争の時代に生きた私の、『書かなければいけない』という使命感が、私を

突き動かすのです。」



 

山崎豊子氏のご冥福をお祈りするとともに、米国が中国を大国として認めて以来

急速に流動化してきた東アジア情勢に、冷静かつ真摯に向き合いたいと思いました。