2016.02.09
シリーズ・新聞記事より~乙女なおじさん?
あれもこれも担当の千葉です。
新聞というのはお堅いイメージが付きまといます。そりゃ週刊誌やテレビの民放に比べ
れば遙かにお堅いのでしょうが、文化欄などを中心に、結構楽しい記事も見受けられ
ます。最近の新聞からそんな記事を幾つか抜き出してみました。
まずは1月20日の日経新聞より、芥川賞・直木賞発表の記事。滝口悠生氏の『死んで
いない者』と本谷有希子氏の『異類婚姻譚』が芥川賞に、青山文平氏の『つまをめとらば』
が直木賞に選ばれました。本谷氏の小説は、2006年から09年にかけて数冊読みました。
歳はまだ36歳ということですが、新人というよりはもうかなりのベテランですね。
そんな記事のほんの2日前に、同じ日経新聞に面白い記事がありました。
文学賞受賞が作者に及ぼす健康効果について。社会的地位の健康効果に関する研究
の中で、芥川賞・直木賞の受賞が余命に与える影響を分析したとの記事です。ノーベル
化学賞・物理賞の余命効果はプラス1.6年。アカデミー脚本賞はマイナス3.6年。芥川
賞はプラス3.3年で直木賞は逆にマイナス3.3年。若手純文学の登竜門たる芥川賞の
ように、未だ若く経済的地位が確立されていない時の受賞は余命にプラスの効果があり、
売れっ子の大衆文学作家が多い直木賞受賞者などは、心理的ストレスが増えるからとの
分析がされているようですが、いささか強引な分析に聞こえます。
日経新聞の朝刊最終面は、 なかなか面白い紙面です。ひと月でひとり、各界の著名人
の自伝連載の『私の履歴書』は有名ですし、新聞小説もこの最終面にあります。しかし、
白眉は文化欄の寄稿記事ではないかと思います。このひと月でもかなり楽しい記事が
掲載されました。
去年『流』で直木賞を受賞した東山彰良氏の『役立たずたちの道』。お気に入りのオー
ストラリア出身のロック・ミュージシャンのリック・スプリングフィールド(懐かしい!)の
アルバム・タイトルの『TAO』が実はタオリズム、つまり道教・老荘思想から来ているとの
導入に続いて、老荘思想の例え話やオスカー・ワイルドの言を引いて、『無用の用』に
ついて論じています。芸術などのように役に立たないからこそ純粋に他人の心を打つ
ものもあるのだと。
その一週間後くらいには、3年ほど前に『爪と目』で芥川賞を受賞した藤野可織氏の
寄稿もありました。ネットの検索の便利さから始まり、ネットを通して同じことを感じ・
考えている人が自分の他にもいることが判り、ふと人は多くの他人と繋がっているような
錯覚を起こしたが、やはり自分の脳は自分一人だけしかアクセスできず、そればかりか、
あらゆる脳が孤立しているという事実に立ち返るもの。
更にその一週間後には、2年前に『昭和の犬』で直木賞を受賞した姫野カオルコ氏の
『舞姫のユーウツ』が掲載されました。『いい感じで日経新聞片手に御食事中なら、
お願いします。どうか、この欄を読むのはおやめ下さい。』と始まるこの寄稿の要約は
さし控えるとして、公共の場での『はしたなさ』への異議申立は、この作家の身上である
ユーモアに実に富んでいました。
この欄の寄稿者は文学者ばかりではありません。私の趣味で文学者のものの紹介が
多いだけで、色々な文化人の寄稿があります。主婦だった方の趣味が高じて絵双六の
研究者になった方のものも、今まで知らなかった世界を紹介してくれました。
デビッド・ボウイやグレン・フライ、モーリス・ホワイトと、 先月から今月に掛けて、私の
青春時代の憧れのスター・ミュージシャン達の逝去の報が続きました。なんと、お堅い
はずの日経新聞(最終面)に、『あの』渋谷陽一氏の追悼記が掲載されました。伝説的
なロック評論家で、中学生の頃は憧れて私も音楽評論家になりたいと夢見たことのある
方です。評判が良くなかったために買わないでいたデビッド・ボウイの最新作(遺作)を、
この追悼記を読んで取り寄せてみました。
うーむ、メロディ・ラインが綺麗でポップスセンス旺盛なボウイとは随分とかけ離れた
印象のアルバムでした。
最後は、最終面ではありませんが、面白い記事をご紹介しましょう。
『ヨガやバレエ、フラダンスなどに挑戦する中年男性(乙女なおじさん)が増えている』
のだそうです。『バレエシューズを履き、白いステテコ姿もいる。』『腰みの姿で音楽に
合わせ、腰を柔らかく振りながらステップを刻んでいた。』
先の姫野カオルコ氏の記事ではありませんが、どうぞ、公衆の面前ではご遠慮を
戴ければ、と願うばかりです。