2020.12.05
シリーズ・徒然読書録~小川糸著『ライオンのおやつ』
あれもこれも担当の千葉です。
読書は好きで、常時本を持ち歩く癖が付いてしまいましたが、読み方は極めて大雑把、何かしら記憶のどこか、心の片隅にでも蓄積されていれば良いという思いで雑然と読み流しています。暫くするとその内容どころか読んだことさえ忘れてしまうことも。その意味で、読者の皆様には退屈でご迷惑かとも恐縮しつつ、ブログに読書録なるものを記してみるのは自分にとって有益かも知れないと思い、始めてみました。皆様のご寛恕を請うところです。
徒然なるままに読み散らす本の中から今回取り上げるのは、小川糸著『ライオンのおやつ』(ポプラ社刊)。
帯にちょうど良い紹介文がありました。本書の題名となっている『ライオンの家』とは、ライオンは百獣の王、敵に襲われる心配はなく、安心して食べたり寝たりすれば良い場所、という意味で命名されたホスピスで、入所者の意向を限りなく尊重してくれる終の棲家です。主人公の雫の入所してから天に召されるまでの短い間を描いた物語です。
小川糸氏の作品は、『食堂かたつむり』『つるかめ助産院』『ツバキ文具店』と主だった小説を読んで来ました。どれも暖かく柔らかく穏やかでほのぼの癒し系のものがたり、という印象でしたが、良くも悪くも強烈な印象はなく、今回も全く同様の読後感を持ちました。
心に留まった文章を紹介してみます。
『担当医から、自分の人生に残された時間というものを告げられた時、私はなんだか頭がぼんやりして、他人事のようで、うまくそのことを飲み込めなかった。何かに似ていると思ったら、船酔いだった。実際に船に乗ってみて、気付いた。以来、足元がゆっくりと揺れているような感覚が続いている。』船酔いと似ていると表現されたのはあまりお目にしたことはなく、とても新鮮な感性だと感じました。
『真っ向から病気と闘っていた時は、・・・怒ったり、泣いたり、ぬか喜びしたり。いちいち無駄なエネルギーを浪費することに、私は疲れてしまったのだ。感情を爆発させるたび、私の命が削られていく。そのことを。私は肌で実感する。だから、抵抗するのはもうやめた。やめて、私は流れに身を任せることにしたのだ。』
『なんでも受け入れて、好きになる必要なんてない。もっとわがままになっていいのだと、海が、風が、私にそう囁きかける。・・・最後くらい、心の枷を外しなさいと、神さまは私に優しく口づけしながら、そうおっしゃっている。』
『思いっきり不幸を吸い込んで、吐く息を感謝に変えれば、あなたの人生は光り輝くことでしょう。』
『私がきちんと見ようとしなかっただけで、星はちゃんとそこにあるのだ。必死になって夜空を探せば、私を見てくれている星がきっとある。』
『辛い時こそ、空を見上げて思いっきり笑うんです。そうすれば、あなたよりもっと辛い思いをしている人たちの希望になれますから。・・・人はな、楽しいから笑うんやないんやて。笑うから、楽しくなるねん。』
『本当の本当のところでは、まだ死にたくない。私はもっと生きたい。・・・死を受け入れる。ということは、自分が死にたくない、という感情も含めて正直に認めることだった。』
そして最後に、暖かく癒される読後感の源とも言える文章が待っていました。
『もう、元気な頃の体には、戻れない。でも、元気な頃の心は取り戻せた。そのことが今、すごく誇らしい。感謝の気持ちが、私の中で春の嵐のように吹き荒れていた。』